正義感とは何か。YouTuberは性善説か、性悪説か

今や生活に広く浸透した動画配信サイトYouTube。その投稿者(YouTuber)には、法に抵触するような無軌道配信をする人も少なくない。彼らは、なぜこうした愚かとも言える行動を繰り返し、時には事件を起こしてしまうのだろうか。『生身の暴力論』(講談社現代新書)の著者で裏社会の取材に長けた久田将義氏が、その理由と誰もが配信者になる時代への対処法を考える。

YouTuberはなぜ迷惑をかけるのか

何かと言うと、YouTuberが世間にニュースを提供しているケースが増えている気がしている昨今。

例えばコロナ感染者であるにも関わらずマスク無しで複数人でドライブ。県外に行き、飲食店で食事をし、ファンと称する人たちと「密」の状態で写真を撮ったりしていた「へずまりゅう」というYouTuberが、最近だとこの手のお騒がせ系(一般に迷惑系と称される)として名前が挙げられるだろう。Photo by gettyimages

この「へずまりゅう」の出現に「また出たか」とクールに見る人もいれば「YouTuberはけしからん」と驚きと怒りを露わにする人もいた。ネット・配信事情に詳しい人なら、前者の感想を抱くだろう。

ドワンゴがニコニコ生放送(以下・ニコ生)で一躍、若者を中心に顧客を取り込んだのが2007年。

2012年には「ブロマガ」というサービスが始まった。ブログと配信を課金で観られるというものだ。

芸能人・文化人などがこのサービスの提供者として「招待」された。なぜか当時、ネオ実話誌と呼称された「月刊実話ナックルズ」発行人(大洋図書)という立場だった筆者も当初から参画する事になった。

「生主」という元祖

ネット配信に足を踏み入れて9年目に到るが、その頃から「へずまりゅう」のような配信者は存在していた。

いや、動画配信サービスが始まった15年ほど前から、「へずまりゅう」並みのお騒がせ者たちがアンダーグラウンドで跋扈していた。

YouTube全盛期以前、配信サービスSTICAMがスタートしてから2年後の2008年、男性Aが配信中、刃物を出して「通報されたらネタになる」などと言って騒動を起こす。

彼はその後、ニコ生に移動し、生主(ニコニコ生放送の配信者の総称)として威力業務妨害や脅迫の疑いがかかるような言動を配信。

BAN(運営の判断で配信停止になる事)されニコ生で活動しづらくなってからは、FC2やふわっちなどの配信プラットホームに移動し配信を続けた。

彼が原因かどうかは、断言できないものの、Aの周囲では、警察沙汰になる生主が続出。怖い物見たさで視聴する人が増えたりもした。ドーピングのようなものである。

因みにAはドワンゴから入金されるシステム「チャンネル放送」で配信していない為(チャンネル放送を行うには審査がいる)、もっぱら視聴者から「お布施」と言われている体の良い寄付などで生計を立てていると思われる。ネットスラングで「古事記」と呼ばれた行為である。

彼の影響を受けた生主は良い悪いは別にして、当時は少なからず存在していたはずだ。いわば元祖お騒がせ系(迷惑系)と言ってよい。

炎上系と迷惑系の違い

YouTuberをいくつかに分類すると、・職業YouTuber系
・芸能人系
・インフルエンサーのような著名人系
・スポーツ、格闘技系
・ライターやジャーナリスト系
・ペットや料理を配信する趣味系の人系
・仕事を持ちながら副業系
・お騒がせ系

といったところだろうか。「へずまりゅう」は迷惑系と言われたが、迷惑を通り越して「事件系」とでも称するべきだ。逮捕までされては洒落にならない。総称してここでは、お騒がせ系とネーミングしたがその中でも炎上系迷惑系に分かれるだろう。

一見、同じに見える配信スタイルの炎上系と迷惑系だが番組の中身と目的は全く異なる。

炎上系は台本を用意し、プランを立てて世間を騒がせるのが目的だ。

結果、アンチも増えるがそれは視聴再生回数の増加につながる。もちろん、ファンが増えた方が良いがアンチをも自分の「お客さん」として取り込むのが炎上系だ。結果、自分が潤えば良いという狙いである。Photo by iStock

本来、お騒がせ系の配信者は大体、台本を作り、その通りに行動をしているので、実はさほど大きな事態にはならない。しかし、それを知ってか知らずか真似をし、危険な事をすれば再生数が伸びると信じて、台本無しの「いじってはいけない領分」に手を出すYouTuberもいる。

迷惑系である。

拉致されたYouTuber

迷惑系は上記で紹介した男性Aのように、法に抵触しても構わないような無軌道配信をする人を言う。迷惑系のファンになる人もいるが、BANや下手をしたら逮捕される事もある。あるいは下記で紹介するような、ひどい目に遭う事もある。デメリットの方がはるかに大きい。

2020年12月。神奈川県内と思われる場所で、あるYouTuberが配信中に拉致されたとされる「事件」が起きた。

彼はキャバクラに(突撃のネットスラング。アポイントなしで対象者にカメラを向ける事)。それなりに再生数を稼げたのだろう。同じ店に凸を繰り返し、配信していった。

その後、1人で夜に帰宅途中の模様を配信中、突如、複数人と思われる男たちの声が聞こえた。画面は真っ暗になり「すみません!」と謝るYouTuberの声がもれてくる。その後、配信は途絶え、彼の行方も分からなくなったが、数日後、傷心したような声で謝罪動画をアップ。

これも台本があったのか、疑問視する人もいるが、台本無しでこのような凸をする事は、本当に止めたほうが良い。二次被害が起きるのを防ぐため名前を伏せるが、あるプラットフォームで、某広域指定暴力団と著名人の揉め事を解説した配信者が脅迫された出来事も起きている。

間違えた正義感が危ない

間違えた正義感で配信しているのが迷惑系の特徴だ。「違法営業のキャバクラなら、晒してもいい」「視聴者が応援してくれる」。この危機感なしの、ずれた感覚の配信はいつから始まったのか。

ニコ生で流行った「架空請求に電話してみた」シリーズがスタートだと思う。その大元は日本テレビ系「バンキシャ」で始まった「イマイ記者」だ。日本テレビ社員と言われている「イマイ記者」が架空請求(当時はオレオレ詐欺)に身分を隠して電話し、架空請求業者から自分たちがやっている事は違法だという言質をとるものだ。

「イマイ記者」シリーズは「バンキシャ」以外にゴールデンタイムで放送され、ワイプタレントたちから「すごーい」「カッコいー」といった称賛を受けた。これをネットで配信して視聴者を獲得する生主も続出。Photo by iStock

筆者も何度か、ニコ生でこの手の怪しい電話番号にかけ、相手から「自分たちは架空請求だ」旨の言葉を引き出させたり、銀行口座を抑えたりもした。

当時は指定暴力団のシノギではなく、半グレ(と、当時では言われていなかった)のそれだった。

暴力団排除条例が全国で施行された2011年頃。取材中、ある指定暴力団幹部が「もう架空請求でもやろうと思っている」と言っていた事を覚えている。

お年寄りを騙す事が「任侠」というものだろうか、と疑問に感じたものだ。そこで、そう質問してみると、「食うためなら何でもやる。ヤクザはそういうもんだ」と言った別の指定暴力団幹部もいた。

ヤクザとヤラセ

同じような企画で、「ぼったくりバーに凸してみた」というシリーズがある。歌舞伎町や大阪のミナミなどでぼったくりバーに潜入するという企画である。

誰がやり始めたのかは分からないが、一時的にその手の動画が増えた。もちろん再生回数が稼げたからだ。が、ぼったくりバーで揉めて料金は払わないで帰ってきたり、時には事務所に連れて行かれケツモチのヤクザと交渉するなど、本当にあり得るのだろうか。

新宿・歌舞伎町に事務所を構えるある指定暴力団三次団体組長に聞いてみると「あれはヤラセでしょ。あり得ない」と一笑に付す。すなわちほとんどが台本ありの動画と言ってよいのだが、安全を確保する上でのヤラセは致し方あるまい。

視聴者は、知ってか知らずかコメント欄に「凄い」「かっこいい」「勇気がある」と書き込み、そこにファンコミュニティが出来上がる。しかし、台本無しのキャバクラ同様、くれぐれも裏社会をイジるのは危険であると経験上、強く言っておきたい。なのに、なぜ迷惑系はいなくならないのか

大学デビューならぬYouTuberデビュー

YouTuberは元々は素人である。何十年もの歴史があり、マネージメントシステムも確立されている芸能事務所に所属しているタレントではない。だからこそ、テレビとは関係のない、あるいはテレビではやらない面白い事も出来る。

一般人だった人間がYouTubeで人気になり、街中で声をかけられる、コメント欄でも称賛される、再生回数も伸びる。特に、お騒がせ系YouTuberにとっては、一般人から有名人に一歩階段を上ったような高揚感を得られる。

芸能人、文化人、スポーツ選手などの副業系YouTuberと違う点はここにある。高揚感のまま、後先を考えずに配信する。報道ベースにまでは乗らないまでも、上記のキャバクラ凸のYouTuberのような人が現れてしまう。彼らはなぜ、そのような事をするのか。

「デビュー論」で考えればわかりやすいだろう。彼らは「YouTuberデビュー」である。「デビュー論」については拙著『生身の暴力論』(講談社現代新書)で解説したのだが、ここでは簡潔にアウトローを例に説明してみる。

生粋のアウトローは小学生から不良の道に入り、中学入学時にはいっぱしの不良少年になっている。これはデビューとは言わない。不良の王道である。

が、中学の時には大人しかったのに高校に入ってから急に、遊び出したり不良ぶったりすることは「高校デビュー」と言われ、生粋のアウトローに小バカにされたりする。まして、「大学デビュー」「社会人デビュー」などは論外である。

「へずまりゅう」などはYouTuberを引退した今でも、追いかけられ今の姿(スーパーで働いているらしき動画がアップ)を晒されたりしている。彼も「YouTuberデビュー」と言ってよい。

Youtuberデビューは火傷をしやすい。なぜか。生主で配信を始めた「生主デビュー」の人たちと比較してみる。彼らは迷惑系にならず、そのままYouTuberへの移行に成功している。生主時代で配信の危険性を学んだからだろう。

「配信デビュー」を早くにしておいたおかげでリスクを減らし、Youtuberになった彼らの一部は炎上系、あるいは王道YouTuberとして生き残っている。

Clubhouseに要注意

YouTubeは伝播しやすい。ある程度、決まった動画を見るとおススメとして、自分のパソコンやスマホの上位に類似した動画がアップされる。

暴力や性的動画に関してはGoogleの規制が厳しくなっており、それはなくなっているため、迷惑系が増殖する事は多くはないだろうが、「全くない」とは言い切れない。

現に「へずまりゅうの弟子」と称する人間やそれに類する動画をアップするYouTuberは、一定数存在する。もっとも、へずまりゅうも「へずまりゅうの弟子」も逮捕され、YouTuber生命を断たれた。デビューが遅い人間の悲喜劇である。Photo by iStock

デビューが遅くなったら、むしろデビューしなくても良いではないか、という賢明さと慎重さを持っていたい(それが出来ないからデビューしてしまうのだけれども)。

とは言え、この手のお騒がせ系がいなくなる事はないだろう。

YouTubeやツイッター、facebook、Instagram、TikTokが隆盛を誇っている限り、冒頭の男性Aならぬ男性BやC、D。あるいは「第3のへずまりゅう」が新たに登場してきてもおかしくない。

更に、Clubhouseも日本に上陸。新しくマンションが建つと、そこに住民が住む訳だが、その住民が全員、デビューが済んでいるはずもないのだ。

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